裁判所というと裁判官しかイメージできない人も多いと思いますが、実際に裁判所を動かしているのは裁判所事務官・書記官になります。
特に裁判所書記官の仕事は専門性が非常に高く、知れば知るほど魅力的なものです。
ここでは、裁判所事務官と書記官の仕事について具体的にまとめてみたので裁判所事務官を目指している人は参考にしてみてください。
この記事の目次
1 仕事からみる裁判所の組織
裁判所の組織は、大きく「裁判部門」と「司法行政部門」に分けられます。
1−1 裁判部門
裁判部門の各部署(事件部)には裁判官・裁判所書記官・裁判所事務官が配置され、裁判の審理・手続に携わります。
※家庭裁判所には、家庭裁判所調査官がさらに配置されます。
■地方裁判所の組織の一例
民事部
−通常部
−特殊部(破産や執行事件を処理する専門部など)
−訟廷事務室(記録の管理や、民事部職員の管理事務等)
刑事部
−通常部
−特殊部(令状の事務を行う専門部など)
−訟廷事務室(記録の管理や、刑事部職員の管理事務等)
■家庭裁判所の組織の一例
家事部
−刑事部
−訟廷事務室(記録の管理や、家事部職員の管理事務等)
少年部
−刑事部
−訟廷事務室(記録の管理や、少年部職員の管理事務等)
1−2 司法行政部門
司法行政部門には裁判所事務官が配置され、裁判事務が合理的・効率的に運用されるために、人員や設備などについての職務を行います。
なお、書記官資格をもっている事務官も管理職として多く配置されます。
■司法行政部門の組織の一例
事務局
−総務課(庶務全般、広報等)
−人事課(採用や異動、給与、研修等)
−出納課(裁判所で扱われるお金の管理等)
※裁判所の規模によって、部署の名称や分類方法が若干異なります。
2 裁判所事務官の仕事
裁判所事務官の枠で公務員受験をした場合、採用後は全員が裁判所事務官からスタートします(その後、内部試験に合格すると書記官に任官することになります)。
1で紹介したように、裁判所の仕事は裁判部門(以下、裁判部)と司法行政部門(以下、事務局)に大きく分かれ、採用後はいずれかに配属されることになります。
それでは、それぞれついて仕事の内容について説明していきますので参考にしてください。
2−1 裁判部の仕事は書記官の補助が中心
裁判部とは、民事部や刑事部、家事係・少年係(家裁)などのように、具体的に裁判事件を扱う部署になります。各部には、裁判官+書記官+事務官が配置されています(なお、家裁には家裁調査官も配置)。
裁判官は「裁判審理」のプロとして、書記官は「裁判手続」のプロとして仕事をしていきますが、その書記官の仕事を補助する仕事が事務官の主な仕事になります。
たとえば民事部では、絶えず窓口に法律事務所の職員や弁護士などが事件の書面を持参したり、郵便やFAXで送付してきます。それを確実に受付し、担当書記官に引き継ぐ仕事があります。
書類の受理以外に、裁判期日の呼び出し状や判決書の発送準備もあります。書記官の指示に従って、法律に規定される手順で適格・迅速に処理をしていくことになります。
その他、裁判所では毎月統計資料を作成しています。全国の何万件という裁判がどのように審理され結審したかなど、各部署でデータを作成し最高裁の担当部署にあげることになっています。
データは裁判所独自のシステムを使って作成しますが、それを行うのが事務官の仕事になります。システムが更新された場合は、マニュアルを読み込み理解することも必要になります。事務官になってパソコンが少し得意になるようなこともあるようです。
2−2 司法行政部門は組織の運営が中心
裁判所も、民間企業と同様に一つの大きな組織ですので、その組織を運営するための部門が必要になります。それが事務局で、各裁判所(たとえば東京地裁、東京高裁等)にそれぞれ存在します。
事務局には事務官が配置されますが、書記官の資格を持っている職員(有資格事務官)が配置されることもよくあります。特に管理職については書記官の方が多いようです。
事務局の部署には、たとえばみなさんが受験の際に真っ先にお世話になる人事課があります。人事課では、採用に関する手続、受験当日の準備等を行いますが、その他にも裁判所内の人事異動の手続、各種研修や、給与等に関する事務も人事課の各係で担当します。
東京地裁のように、職員が1000人を軽く超えるような部署ではその事務が膨大となり、年末調整や採用時期の繁忙期には、かなり残業も増えるようです。
また、裁判所も1つの組織として運営していくためにお金を扱いますが、それを担当するのが出納課といわれるところになります。出張費などはこの出納課に請求しますし、裁判所ならではとしては、たとえば保釈金などの取扱いも出納課で担当したりします。
その他いろいろな部署がありますが、たとえば最高裁判所には、最高裁判所裁判官のスケジュール等を管理する秘書官という仕事があったり(いわゆるお茶汲みではなく、とても重要な業務を扱っています)、裁判所で使うデータを開発する情報政策に関する部署などもあります。
事務局の仕事を嫌いずっと裁判部で仕事をする人もいますが、裁判部よりも事務局の仕事の方が面白いという人もいます。
裁判所は非常に組織が大きいため、適性や希望を考慮してくれるというメリットがあります。
3 裁判所書記官の仕事
ここまでは「裁判所事務官」の仕事について説明してきましたが、ここからは「裁判所書記官」の仕事について説明していきます。
裁判部では、事務官の仕事はあくまで書記官の補佐に過ぎず、固有の権限がないため雑務が多いのが現状です。したがって、事務官に採用されたら絶対に書記官を目指す方がよいですし、裁判所に入ると管理職から書記官試験を受けることを前提に話をされることも多いです。
では書記官はどのような仕事をしているのか紹介しますので参考にしてください。
3−1 裁判所書記官は訴訟手続の専門家として活躍できる
書記官は固有の権限が与えられており、その権限に基づき様々な職務を行います。具体的には、法廷立会、調書作成のほか、執行文の付与、支払督促の発布など、事件の当事者が権利を実現するために必要な文書を発行する職務を担います。
実は、裁判所は裁判官だけでは存在しえない機関であり、書記官という存在が必要になるのです。
たとえば、刑事部では保釈請求や被告人の身柄拘束といった仕事があります。これらは人権に直接関わる事務であり、迅速性だけでなく絶対的な正確性も追求される仕事になります。
また裁判員裁判を担当する刑事部の書記官は、裁判員の選任手続にも立ち会います。長期にわたる裁判員裁判の場合は裁判員自身の負担も重くなるので、できるだけ短期間に裁判ができるように裁判官と綿密に準備を行います。また裁判員に対して適切な応対をとることも、書記官の重要な仕事になります。
司法制度を正確に理解し、それを運用していく重要な役割を担っています。
民事・刑事など裁判所の種類にかかわらず、国民の人権や財産に直接関わるという点で重大な責任がある一方、やりがいを感じられる仕事といえるでしょう。
3−2 オフィスワーク中心だが常に対外的な仕事
書記官は、書記官室と法廷との往復が一般的で、いわゆるオフィスワーク中心になります。たとえば、民事1部という部署には裁判官室と書記官室という執務室がつながっており、書記官室で書記官や事務官が仕事をします。
しかし実際の仕事は、書記官室に訪れる弁護士・弁護士事務所職員・当事者への応対や説明、証書の交付、証人や通訳人との連絡、裁判員の応対など、裁判所以外の人と常に関わる仕事といえます。
また、事件によっては裁判官と現場検証に赴くことがあります。たとえば東京から沖縄への現場検証が決定されると、日帰りでの出張は厳しいため出張先で一泊することになります。
しかし近年、公務員全般にいえることですが、旅費(出張費)の請求は大変厳しくなっており、日帰りが可能なら日帰りを強いられますし、最低限の費用しか支給されないため、古き良き時代のような楽しい出張とはいえないようですので、大きな期待はしないほうが無難でしょう。
4 裁判所事務官・書記官に向いている性格(求められる力)
事務官・書記官の仕事に向いている性格(求められる力)には、以下の3つが最低限必要と考えます。
②組織力
③作業を正確にできる力
①丁寧な応対力
裁判所に訪れる人がやり手の弁護士ばかりならよいのですが、実際には、初めて裁判を担当する弁護士や司法修習生、法律事務所のお使いできている若手の事務員の方であったり、さらには、弁護士は絶対につけないといって自分で訴訟を進める頑固な当事者などもいます。ときどき、日本語がままならない方が裁判所で迷子になっていることもあります。廊下で突然騒ぎ出すような尋常でない人もいます。
このようないろいろな来訪者に、その都度、適切に対応できることが求められています。
決してサービス精神が旺盛であるとか、饒舌であるということは求められません。誠実に丁寧に応対できることが必要になります。社会人経験のない学生の場合は、一般的には男性よりもやや女性の方が得意にするところともいえます。したがって、応対力に自信のない男性はその点を意識して大学生活を過ごす事も大事でしょう。
②組織力
民間企業、特にベンチャー企業では個性が重視されることもしばしばですが、裁判所には限らず公務員全体にいえることでもありますが、仕事の中で個性はあまり求められません(私生活がとても個性的な方はたくさんいます。)。
自分の意見をもちながら、組織の状況に常に配慮し動いていくこと、組織の中で問題を起こさないことが必要です。
たとえば裁判部では、それぞれの膨大な数の事件を裁判官・書記官・事務官で常に恊働して扱うことになります。事務官の仕事は書記官の補助にすぎませんが、窓口を捌いてくれる事務官が1日欠席しただけで、書記官の仕事が遅れだし、ひいては裁判官にも影響することもあります。
※有給はしっかりとれますが、仕事の状況に応じて計画的にとることが一般的です。
このように、組織の一員として全員が協力して働くことが絶対に必要となっています。新しい政策ではなく、今あることを法律等に基づいて着々と進めていく仕事だと思って下さい。
もし個性を活かして新しいことをどんどん推進したいという方は、裁判所は向いていないと思います。むしろ、まちづくりなど新しい政策を次々に進める地方自治体の方が向いているでしょう。
③作業を正確にできる力
1つのミスが、国民の人権・権利を侵害してしまうことになります。
たとえば、「渡辺さん」と「渡邉さん」は全くの別人になるので、1字1句、常に注意する必要があります。
また、裁判所から当事者に裁判の書面をFAXで送付することもしばしばありますが、FAX番号の数字を1つ間違えただけで、全く違う人に裁判の書面が届き、個人情報が簡単に漏洩されてしまうのです。
このようにちょっとしたミスすら許されないのが裁判所の仕事です。職務中は、大量の書類やたくさんの電話に気が散ってしまうのが現状ですが、そんなときでも正確に仕事を処理していく力が必要となります。
もっとも、この力は仕事をする中でも身に付いていくので、必要以上に気にすることはないでしょう。
しかし、「渡辺さん」も「渡邉さん」も一緒じゃん!と思うような方は、裁判所にはあまり向いていないといえるかもしれません。
5 書記官になると転勤することもある
仕事の内容からも、事務官はあくまで書記官になるためのステップと考えるのが裁判所の立場です。事務官より、昇級ペースが早いので、給与の面でもやりがいの面でも書記官になることをお勧めします。
しかし、書記官に任官するときには転勤を伴う可能性があります。これはあくまで可能性にすぎず、事務官のときと同じ裁判所に戻ってくる場合もよくあります。
ケースバイケースとしか言えませんが、首都圏以外の県で事務官をしていた人は、少なくとも同じ道府県の裁判所に配属される傾向があるようです。
たとえば、栃木県出身の宇都宮地裁の事務官が、書記官になっ足利支部(栃木県内)に配属され、数年後、また宇都宮地裁に戻ってくるというように、県内で異動する方もよく聞きます。
東京地裁の事務官が、書記官として東京地裁に配属されることももちろんあります。
ただし、東京(霞ヶ関勤務)の事務官が書記官になるときは、年度によっては大量に地方の県に書記官として飛ばされることがありますので、その点だけは覚悟だけはしておきましょう。数年後、霞ヶ関に戻ってくることは多いようです。
裁判所事務官の転勤については知っておきたい裁判所事務官の転勤情報に詳しくまとめていますので参考にしてみてください。
6 まとめ
裁判所の仕事を少しだけでもイメージすることができたでしょうか。
裁判所では、ドラマよりも複雑な事件がたくさん扱われています。そのような事件の渦中にいる人たちを、裁判手続のプロとしてサポートしていくのは、とても魅力ある仕事といえるでしょう。
専門家としてたくさんの事件に携わって、裁判の運営を支えていってほしいと思います。