精神保健福祉士は民間の精神科病院や作業所などの障害者施設で働くのが一般的ですが、公務員の応募もあります。
しかし、精神保健福祉士の公務員に関する情報はとても少なく、困っている人も多いのではないでしょうか。
ここでは、そうした情報の少ない精神保健福祉士の公務員について、どのような仕事をし、どういう試験があり、また給料はどうなのかについて詳しく説明していますので、少しでも精神保健福祉士として公務員を検討している人は参考にしてみてください。
この記事の目次
1.精神保健福祉士が公務員として活躍できる場所
精神保健福祉士は社会福祉士と同様にソーシャルワーク業務(主に患者さんのお金や福祉制度についての相談に乗る仕事)を行う専門職です。
社会福祉士が老人・児童・障害者など幅広い支援対象があるのに対し、精神保健福祉士は精神障害者の支援に特化しているのが大きな違いとなります。
精神保健福祉士が公務員となった場合、以下の施設での勤務が想定されます。
1−1.保健所・精神保健福祉センター
保健所・精神保健福祉センターでの勤務は都道府県で精神保健福祉士の採用募集があった場合に配属される可能性があります。
保健所で働く場合の主な仕事は、住民からの精神保健福祉相談、地域で医療に結び付いていない精神障害の方に医療に繋げる支援、保健所主催のデイケア運営などがあり、地域の方に密着して業務を行います。
また、行政の立場として、病院関係者・施設関係者などと支援に関する会議などに出席することも多いです。
1つの地域を数人でカバーすることになるため、1人当たりの持ちケースが多く、激務となるケースが多いです。
また、精神保健福祉センターはその都道府県単位で設けられている施設であり精神関係の中核的な施設です。
こちらは現場で直接支援に関わることは少なく、どちらかと言えば精神関係の制度についての事務作業、地域の保健所・病院・施設などからの問い合わせ、困難ケース(支援が難しい障害者)への助言などが主な仕事となり、後方的な支援がメインとなります。
精神保健福祉センターの仕事も採用された自治体内全域からの相談に対応しなければならず、かなり激務となります。
保健所とセンターの役割は都道府県によって若干異なりますが、大まかに分ければ保健所が現場、センターが事務・後方支援と考えてよいでしょう。
1−2.病院・障害者施設
市や県が精神科のある病院や障害者施設を持っている場合、それらの施設に配属される可能性があります。
こちらは基本的に民間の病院・施設と大きな業務の違いはありません。
病院であれば患者さんや家族への相談対応、入院患者の退院支援、病院内でのデイケアなどのプログラム運営、他機関との連絡調整などが主な仕事となります。
施設であれば利用者さんや家族への相談対応、作業やプログラムなどの運営、就労支援、生活支援・他機関との連絡調整などが主な仕事となります。
ただ、公的な病院(施設)ということで、民間では採算の取れない困難ケースが押しつけられることが多く、支援は民間以上に難しい場合があります。
また、地域の勉強会などを主催するなど、地域のリーダー的役割も持つことが多くなります。
1−3.市役所や区役所といった地方自治体の庁舎
市役所や区役所といった役所内の福祉関係の部署で働く場合もあります。
保健所と同じように住民からの精神保健福祉相談、地域の精神障害者への支援などを行いますが、こちらは精神障害者への支援に限定していない場合もあります。
また、役所内の他の一般職員と同じ業務となるので、窓口での障害者手帳交付といった事務作業などもあります。
1−4.保護観察所
保護観察所は上記で紹介したものと違い国家公務員となり、「社会復帰調整官」として活躍します。これは精神障害者で犯罪を犯した人の社会復帰を支援するという仕事で非常にやりがいのある仕事です。
ただし、実務経験8年以上という、かなり高度な経験・知識が必要となります。また、毎年採用があるわけでなく、人が抜けた場合などに補充されるようです。
高度な経験を求める上に採用人数も少ないため、採用されるのはかなり難しいかと思いますが気になる方は法務省の募集ページをご覧ください。
【精神保健福祉士の募集について】
このように精神保健福祉士が公務員として活躍する場所は多数あります。しかし、通常の行政職の公務員のように募集が少なかったり、募集しているタイミングも自治体によって様々です。
そのため、常に募集についてはアンテナを張り、自分の希望する自治体が募集しているかをチェックしておく必要があります。
こむいんというサイトでは行政職のみだけでなく精神保健福祉士のような専門職についても全国の募集情報が掲載されているので、ぜひ参考にしてみてください。
2.給与は民間よりも良いことが多い
一般的に精神保健福祉士の給料は安く、ほとんど昇給がありません。そのため、昇給があり安定した公務員を目指す方も多いのが現実です。
精神保健福祉士は自治体の多くが業務経験者を募集しており、募集要項にそのように書いていない場合でも試験では実務経験者が優遇されることが多くなっております。
したがって、採用された段階で一般的な新卒で働いた人よりも最初から給与が高い傾向にあります。ちなみに公務員の給与は棒給表というもので決まっており、新卒よりも高いランクでのスタートすることが多いでしょう(公務員の給与の詳細については公務員の給与や年収について知っておきたい基礎知識まとめをご覧ください。ちなみに精神保健福祉士は行政職扱いとなります)。
例としてあげると、実務経験2年で入庁した場合、2級15号からのスタートとなります(当然、自治体や採用年度によって異なります)。そうすると最初の基本給はおよそ21万円となります。
その他に住居手当、地域手当、通勤手当などの各種手当がついた場合、地域によりますがおおよそ額面26〜7万くらいが1カ月の給与となります。
これにボーナス(夏・冬で約4カ月)を加えた場合、年収はおよそ400万円くらいとなります。
もちろんこれは実務経験の年数や勤務地などによって大きく異なりますが、精神保健福祉士の民間の求人を見てもらえば分かりますが、精神保健福祉士の給与としては結構良い方だと言えます。
公務員は年功序列であるため、継続して働けば昇給もあるため、給与面においてはかなり恵まれています。
結婚し子どもができて、となると民間で働く精神保健福祉士の給料ではなかなか生活が厳しいのが現実です。そういった場合、公務員への転職も1つの選択肢として考えても良いかもしれません。
3.精神保険福祉士の公務員試験について
精神保健福祉士含め、どの公務員試験も試験内容は受験する自治体によってかなり異なります。そのため、ここではいくつかの自治体に共通する特徴を紹介していきます。
3−1.実務経験者が優遇される
先にも書きましたが、多くの自治体では即戦力となる人材が求められており、これは一般的な事務職や行政職とは大きく異なるところです。
そのため、募集要項に「実務経験○年以上」という制約が付けられていることが多いです。
大体2年~5年くらいの経験者を募集するのが一般的でしょうか。履歴書と同時に職務経歴書の提出を求められることもあります。
たまに実務経験の制約がない募集もありますが、応募してくる人は経験者が多いため、実務経験がない方が合格するためには、経験者に比べ優れた何かがないと合格は難しいと言えるでしょう。
一方で経験年数が問われるため、一般の公務員の募集に比べて年齢制限は緩いです。事務職が30歳までのところが、精神保健福祉士であれば35歳まで40歳までOKというところも少なくありません。
このように、精神保険福祉士があるからといって公務員になれるというわけではなく、数年は民間の施設などで経験を積み、経験者として公務員を受験することが望ましいでしょう。もちろん、実務経験を問わない自治体へ応募すれば採用される可能性は全くないわけではないので挑戦するのもありだと思います。
3−2.筆記試験は行政職の試験に比べて簡単である
筆記試験についても自治体によって形式は様々です。
一般的な公務員試験と同じく教養試験と専門試験が課されるところもあれば、教養試験のみ、教養試験に加えてその自治体オリジナルの論述試験が課される場合もあります。
ただ、全ての自治体で共通して言えるのは行政職などの一般的な公務員試験に比べかなり簡単だということです。
例えば都道府県の職員であれば地方上級試験を受けるのが一般的ですが、精神保健福祉士の試験の場合は地方初級レベルの問題が出されたりすることもあります。
行政職と同じ地方上級レベルの問題を出す自治体もありますが、そうした場合、行政職に比べかなりボーダーラインは低く設定されています。
論述試験の場合は、知識を問う問題はほとんどなく、ある障害者のケースを想定してどのような支援が必要か、というような問題のため、とりわけ特別な勉強の必要はありません。
このようなことから、半年くらいしっかり勉強すれば、筆記試験は合格できることがほとんどだと思います。
ライバルとなる他の受験者も現在の仕事しながら受験する人が多いため、それほど勉強せずに受験している人が多く「あわよくば受かりたい」という感じなので、それほどレベルは高くありません。
真剣に半年ほど勉強できる時間があれば、問題なく筆記試験は突破できるでしょう。
参考書は行政職向けの参考書を使えば充分合格レベルに達することができます。
3−3.面接試験は難関であるためしっかりとした対策が必要
精神保健福祉士の募集は多くの自治体が抜けた穴を補充する程度なので、1人のみの採用など、ごく少数の募集となっています。
そのため筆記試験を上手くパスしたとしても、10人近く残っている場合もあり、面接試験で落とされる人も多いため全く安心はできません。
面接試験は多くの自治体で個人面接となります。聞かれることは一般的な志望動機や自己PRの他、これまでしてきた仕事についての説明や専門的な障害者支援の考え方を問われることもあります。
中でも面接試験で必ず聞かれるのは「どうして公務員でないとダメなのか?」ということです。
特に病院や施設の募集の場合、民間とほぼ同じ業務内容となるため、かなり難しい質問ですよね。
「公務員になってこういう仕事がしたい」という、公務員だけができる仕事の特徴を考えて上手くアピールする必要があります。
自分の今までやってきた仕事と連動させて、「これまでの経験を~で活用したい」みたいなのもいいかもしれませんね。
3−4.適正試験がある自治体もある
自治体によっては適正検査があるところもあります。
適正検査とは、面接では把握できない考え方や性格の傾向、適応不適応の傾向を表すものであり主に以下のような形式で出題されます。
クレペリン検査(2つの数字を足し算していくテスト)、バウムテスト(木の絵を描くテスト)、ロールシャッハテスト(インクの染みを見て何に見えるか答えるテスト)などが出題されますが、これらは特に事前対策は必要ありませんので、正直かつ正確に答えるようにしましょう。
4.まとめ
精神保健福祉士にとって、公務員になることは給与面で優遇されていたり、民間ではできない仕事ができるというメリットがあります。
ただ一方で、仕事は決して楽ではありません。
病院や施設以上に少人数で多くのケースを抱えるため、上手く他機関との連携を取って仕事を割り振れないと、すぐに自分のキャパを越えた仕事を抱えることになってしまいます。そのため自分の仕事も上手くマネジメントしていく能力が求められます。
「公務員の仕事ってどんな感じだろう?」と少しでも興味を持った人は、まずは非常勤募集に応募してみるのも1つの手です。
この場合は、仕事が体験できるだけでなく、近隣の公務員応募の情報も入ってきやすい、コネができる(試験で有利になるかどうかは別として、入った後の仕事がやりやすくなる)といった特典もあるので、公務員を目指す人にはおすすめです。
また、公務員試験に必要な経験年数にも加算されるというメリットもあります。
精神保健福祉士として公務員試験に合格するためには面接が合格の鍵となるので、公務員を目指すのであれば「なぜ公務員がいいのか」をよく考えて受験するようにしましょう。