保健師が働く職場としてまず最初に思いつくのが保健センターや保健所などの行政の仕事なのではないでしょうか。
実に保健師の約8割が行政関係の仕事に携わっていると言われています。
そんな保健師にとってメジャーな職場である行政の仕事ですが、その道は決して楽ではありません。
行政に携わるためには保健師の資格以外に公務員試験も合格しなくてはならないからです。
特に新卒から行政職になりたいと考えている場合は、保健師資格の勉強と並行して公務員試験の対策もしなければならないため相当ハードとなります。
ここでは公務員保健師志望の方のために、実際の行政で働く保健師の仕事内容、給与、公務員試験の対策などについて触れていきますので参考にしてみてください。
保健師が行政(地域)で働く職場と仕事内容
保健センター・市役所
各市町村の公務員試験に合格した場合に配属されるのが、保健センターや市役所です。
市役所の場合は配属される部署によって少し業務内容が異なりますので、それぞれの詳細を見ていきましょう。
保健センター、市役所の健康推進課・健康づくり課など
保健センターと役所内の健康推進課・健康づくり課などは、業務内容としては同じです。
これらの部署での役割を一言で言えば「市民の健康を守る」ことです。
具体的な仕事内容は、各種検診の実施、健康に関する教室の運営、市民の健康相談対応などとなります。
一口に「市民」と言っても、子ども、お年寄り、母親、病気の人、障害者など色んな人がいます。
こうした全ての市民を対象としているため、非常に幅広い知識が求められます。
そして当然、これだけの範囲を1人でカバーすることはできません。
病院・施設・他の相談機関など様々な関係機関と連携を取り、中心となって仕事を割り振るマネージャー的な能力が必要となります。
福祉課、障害福祉課など
障害者の相談対応や障害福祉サービス(障害者手帳・障害程度区分の判定など)の手続きを行います。
自治体によって障害者相談は、健康推進課・福祉課どちらがメインで担当するのかが違ったりします。
子育て支援課など
子育てや虐待に関する相談、虐待予防などの活動を行います。
児童相談所や学校との連携が重要となります。
人事課など
市役所内で働く職員の健康管理・病気予防の活動を行います。
職場内での検診、健康相談(メンタルヘルスなど)、啓蒙活動が主な仕事です。
保健所
都道府県の公務員試験に合格した場合、主な配属先となるのが保健所です。
保健所では保健センターや市町村よりも、より広域的・専門的な仕事を担当することになっています。
例えば、感染症対策、難病対策、医療機関の監査、地域の福祉関連の研修会を開くなどは保健所が行う特別な仕事と言えるでしょう。
その他、未熟児、発達障害者、HIVなどの難病などの専門的・困難分野に関しては保健所が担当することになっています。
精神保健福祉の分野は少し線引きが難しく、保健所が主担当で保健センター・市役所が主に動く、という形に原則なっているようですが、それまで関わりのあるケースなどは保健所の保健師が積極的に動いたりすることもあり、臨機応変な部分もあります。
また、夜間の電話番のため、当直のある保健所もあるため想像しているような9時5時で帰れるというイメージで公務員になると後悔することにもなります。
都道府県職員のその他の配属先
都道府県庁
主に健康推進のための計画策定や市町村へのアドバイスなどに携わることになります。
規模としては広い範囲の業務に携わることができますが、保健所や市役所のように住民を相手とするというよりも、事務仕事が中心となるため、どちらが良いかはその人次第でしょう。
その他の専門機関
児童相談所・地域包括支援センター・精神保健福祉センター・発達障害者支援センターなど専門分野に特化した機関に配属される可能性もあります。
これらの機関では主に市町村に助言支援を行ったり、困難事例を受け持つなどバックアップがメインとなります。
上記のように様々な職場で活躍することができる保健師ですが、異動については市町村の保健師はほとんど異動がありません。あっても部署間の異動がほとんどです。
一方、都道府県の保健師は3~6年程度で大きな異動があります。
保健所や各種センターは都道府県内全域に出先機関があるため、どこに飛ばされるか分かりません。
ある程度の希望は聞いてくれるようですが、数年で県内のいずれかの場所に異動になる可能性があるということは覚悟しておいた方が良さそうです。
保健師の給与について
公務員の給与は棒給表という表に基づいて支給され、保健師においては国家公務員棒給表(三)(参考:http://kyuuryou.com/w496.html)に準じて定められた、これをベースに自治体の棒給表に則って支払われます(公務員の給与についての詳細は公務員の給料や年収について知っておきたい基礎知識まとめを参考にしてください)。平均年収は大体400~500万前後となっているようです。
保健師でも民間に勤める産業保健師は場所によって年収に差があるものの、平均すると年収500~600万と言われているため、行政保健師の給与は若干安いと言えるでしょう。
保健師の公務員試験対策
公務員試験は多くの方が受験する行政職(事務職)の場合、一次試験として筆記試験(教養試験・専門試験)が課され、二次試験として面接試験や論文試験などが課せられることが多いです。
ただし、行政職だけでなく保健師の公務員試験についても受験する自治体による違いがかなりあります。
例えば山口県職員の27年度の試験の場合、一次試験で教養試験、専門試験(看護・保健分野)の試験が課され、2次試験では論文問題と面接試験が実施されており、一般的な公務員試験といえる内容となっており多くの自治体がこの形式を取っているかと思われます。
(参考:http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cmsdata/c/c/2/cc2792cc0d771fc70939a6b362abb3ce.pdf)
一方、福島県職員の場合、27年度試験案内では教養試験、適正試験、面接試験のみとなっております。
適正試験は特に対策が必要ないため、上記の山口県に比べれば楽な印象を受けるかもしれませんが、筆記試験が少ない分面接試験の配点が大きくなっており、人物重視の試験となっていることがわかります。
(参考:
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/118457.pdf)
このように自治体によって試験の形式が異なるため、まずは受験先の自治体のHPに行き、どのような試験が課されるのかをしっかり把握することが重要だということを知っておく必要があります。
筆記試験について
公務員試験の関門といえばやはり膨大な出題科目を学習し突破することです。特に保健師のような専門職の場合、多くの方は国家試験の勉強で専門知識はあるため専門試験よりも教養試験の出来が合否を左右すると言っても過言ではありません。
教養試験
教養試験は必ずどこの自治体でも実施されるため、公務員になりたいと考えているのであれば対策は必須です。
教養試験とは、以下の内容の科目が課せられます。
・文章理解(現代文・古文・英文)
・判断推理
・数的推理
・資料解釈
【一般知識分野】
・社会科学
政治、経済、社会、法律
・人文科学
日本史、世界史、地理、思想、文学・芸術
・自然科学
数学、物理、化学、生物、地学
一般知能分野は文章理解は現代文・古文・英文などの長文読解が課せられ、判断推理と数的推理は算数やパズル的な要素がある問題であり、資料解釈は表やグラフを読み取る問題となっています。これらの科目について文章理解以外は公務員試験で初めて学習する人も多く、苦手としている人が多い科目でもあります。
しかし、どの試験でも回答必須としており出題数も多いので早めの対策が必要となります。
また、一般知識分野は社会化学、人文科学、自然科学とあり、これらは高校のときに学習する内容となります。大学受験のときにどれくらい勉強したかが出来不出来に大きく差となって現れてくるでしょう。
受験する自治体により出題科目や出題数が異なってきます。そのため、これら全てを学習する必要はなく、なるべく出題数の多いものや自分が得点しやすい科目を選択しましょう。
ただし、試験によっては与えられた問題は全問必須の場合もありますので、併願する試験とのバランスを見て選択することも重要になります。
専門試験
専門試験は公衆衛生看護学、疫学、保健統計学、保健医療福祉行政論など保健師の国家資格で出題される内容について問われることが多いようです。
形式については択一式または論述式で出題されますが、自治体によって異なるためどちらの形式で出題されるかについては必ず確認するようにしましょう。
択一式の場合は、保健師の国家資格の勉強をしていればそれほど問題ないかと思います。
すでに資格を持っている方は受験する自治体のHPから過去の出題を見てみて、どの程度解けるか確認してみましょう。
もし、保健師を取得してから時間が経っている場合は内容について結構忘れているかと思いますので、保健師の資格取得のときに使っていた参考書を読み直しておき、実際に保健師の国家試験の過去問を解くことが最も良い対策となります。
教養試験もそうですが、公務員試験含めどのような試験もやはり過去問をこなすことが最も効果的です。
保健師の資格を取得された方はわかるかと思いますが、同じような問題が形式を変えて他の年に出題されるということは公務員試験でもいくらでもあります。
そのため、ある程度過去問をこなすことでパターンを身につけ、知識の引き出しを多く持つことで対応することができます。ただし、漫然と過去問を解いてもわかったつもりになってしまい本試験で解けないというパターンに陥ってしまうので、必ず理解しながら解くようにしましょう(不安な方は公務員試験合格に必要な正しい過去問の解き方を参考にしてください)。
論述式の場合は知識を問われる問題と、あなたの気構えや姿勢を問われる問題の2パターンがあります。
知識を問われる問題の場合、それほど難しい問題が出題されることはないので、択一式の場合と同じように教科書や参考書を読みなおしておけば問題ないでしょう。
面接試験
試験が比較的簡単な自治体でも難関となるのは、やはり面接試験です。
その自治体を志望した動機や自己PRといった基本的なことに加え、なぜ公務員を目指すのか、保健師として自分は何ができるか、といった部分もしっかりと答えられるようにしなければなりません。
公務員試験は筆記試験対策が大変なので面接対策は軽視されがちですが、特に地方公務員は人物重視の傾向となっているため、いくら筆記試験の点数が良くても面接での印象が悪いと落とされてしまうことは当たり前のようにあります。
とは言っても民間企業の面接ほど倍率は高くありませんので、予備校などでしっかりと対策をすれば十分に合格することができます。
せっかく筆記試験に合格しても面接で落とされてしまっては元も子もありません。最後まで気を抜かないようにすることが大切です。
まとめ
公務員というと楽なイメージがあるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。特に保健師は住民の健康に関する仕事であるため行政職よりも責任が重く大変な場合が多いです。
その分やりがいも大きいのも特徴といえるでしょう。
まずは自分が「なぜ公務員になりたいか?」をよく考え、合格するためにしっかりと計画的に公務員試験の学習を始めるようにしてください。