この記事の目次
1.避けられがちな地方自治体の「税務職員」
地方自治体の職員にも3・4年間隔で異動がありますが、そんな中でもイメージから敬遠されがちなのが「税務職員」です。
税務職員といっても、その仕事内容は、
・課税
・徴税
の2つに大きく分けられます。
市町村では、課税と徴税をまとめて一つの部門で担当するところもあります。
この税務職員は、哀しいことに地域住民から疎まれることがあります。
さらに職員の異動先としても、敬遠されるケースがよく見られます。
中でも、滞納税をあの手この手で回収する徴税部門がより敬遠されています。
なぜならば、滞納者からの税金回収にはさまざまに大変なことがつきまとうからです。
しかし実際に徴収業務の最前線で働くと、その多くのメリットにも気づくことになります。
それらは、一般的な行政事務では習得できない役に立つ専門知識や、かなり貴重な経験と言っても過言ではありません。
2.税務署の国税専門官との違い
地方税における課税・徴収の原則は、国税で適用される法律や規則と同一です。
しかし、国税は所得税、地方税は自動車税や住民税などと、扱う税金が明確に分かれています。
そのため、国の税務署から地方自治体があれこれ指示を受けることはありません。
むしろ、滞納税回収や納税のための啓蒙活動などで協力をすることがあります。
では、地方自治体の税務職員と税務署の国税専門官との間には、どのような違いがあるのでしょうか。
2-1 国税専門官はスペシャリスト
地方自治体の職員は、3~4年で全く異なる分野に異動になります。
しかし、国税専門官は税務署間で異動になるも、税務業務から離れることはまずありません。
そして国税庁は、研修機関として埼玉県和光市に「税務大学校」を構えています。そこで国税専門官は、数ヵ月単位のみっちりとした研修を受けることになります。
そのため自治体職員は、税務の知識面においてスペシャリストである国税専門官には遠く及ばないのです。
2-2 地方自治体の税務職員の利点
そんな国税専門官に対して、自治体の税務職員が勝るところもあります。
それは地元の情勢(地理、雇用環境、景況など)をよく把握し、滞納者に最適な回収方法が選択できることです。
地方自治体の税務職員は、地元の情報をいち早く収集し、迅速・柔軟に対応できることが多いです。
3.徴収業務のメリット
地方自治体でいざ徴税部門に配属されると、その職員には「徴税吏員(ちょうぜいりいん)」としての特有の権限が与えられます。
その際に発行される「徴税吏員証」を紛失すると、始末書を伴う大騒動となります。
徴税吏員というのは、それほどの権利と責任が伴う身分ということです。
その徴税吏員の具体的なメリットは、以下の点です。
3-1 税収入の仕組みがよく分かる
まずは、自治体の税収入の仕組みがよく分かるようになります。
住民からの現金納付に対応することで、自治体の財源かつ給与の源である税金のありがたさが、痛いほど実感できます。
滞納者からの厳しい声が届くことも日常的で、場合によってはトラブルに発展することも事実、あります。
そんな厳しい条件下で回収を行なうので、自らだけでなく所属の滞納回収実績、自治体全体の税収入にまで敏感になります。
3-2 「差押」を体で知ることができる
「差押(さしおさえ)」という言葉は、ご存じでしょうか?
基本的には、債務者が裁判所に申し立てを行なうと、裁判所で審理されて認められるものです。この一連の作業には、かなりの時間と労力がかかります。
しかし、徴税吏員は国税徴収法の定めにより、税事務所長などの所属長名で差押の執行ができます。
具体的には、必要な決裁書類と公印を用いて、対象者の預金口座、所有不動産や自動車などを差押することになります。
その後、預金口座の現金はそのまま滞納税に充当します。
不動産や自動車の場合は、公売(競売)にかけ売却金額を滞納税分に充当することになります。
このように、徴税吏員や税務部署は、裁判所を経ずに「差押」という法的行為を行なうことができるのです。
ちなみに、県税事務所で最も時間と労力を割く仕事は、普通自動車税の滞納回収です。
一職員あたり年間で50~100件の差押を行なうなかで、さまざまな経験を積むことになります。
3-3 ケースワーカーとして実績が積める
地方自治体の徴税吏員になると、住民感覚で納税の大変さが実感できます。
特に新型コロナウイルス蔓延による不況下では、滞納相談が大幅に増加しました。
このような状況では、滞納者特有の事情を聴きとり、分割納付や納付の猶予など然るべき方法で対応することになります。
このような業務の中で、ケースワーカーとし住民の悩みに対応するためのスキルが高まります。
3-4 時間的拘束が少ない
徴税職員になると、時間外勤務を意図的に避けるようになります。
それは「自らが徴収した税金を、時間外業務で消費するのはもったいない」とコスト意識を強く感じるようになるためです。
またケースワーク型の業務のため、業務量をコントロールしやすいことも一因です。
そして、都府県においても主要地域に税事務所があるので、通勤しやすいと言えるでしょう。
税事務所内においても、総務⇔課税⇔徴税という部門間異動も認められやすいようです。
3-5 外出の機会が多い
徴税吏員になると、銀行口座の差押、滞納関連の調査などで、外出の機会が圧倒的に多くなります。
事務所内での執務が多い公務員にとって、この外出で気分の切り替えが容易になります。
しかしながら、地方部では車での移動ができないと大変なことも多いです。近年の新卒の方は運転実績が少ない傾向があるので、この面で苦労するかもしれません。
3-6 各員の業務実績が比べやすい
徴税吏員の主な業務は滞納税の回収であり、「差押」行為はその一手法に過ぎません。
しかしこの差押の件数は、所属内で徴税吏員を評価する便利な指標となりえます。事務所内では各徴税吏員の差押件数を比べて、叱咤激励されるところもあります。
しかし年功序列が根強く残る自治体全体の人事評価においては、差押件数をどんなに上げても、若手が際立って評価されることはまれです。
4.徴収業務のデメリット
たくさん挙げた徴税吏員のメリットに比べ、デメリットは主に以下の二つです。
4-1 滞納者からの圧力
これはかなり強烈なもので、異動で敬遠される要因であることは間違いないでしょう。
具体的には差押時に納得できない滞納者が、電話で苦情を浴びせてきたり、事務所に陳情に来られたりすることもあります。
このような圧力に、1年目の職員が泣き出してしまうこともあります。
しかし、職員に危害が及ばぬよう、自治体でもさまざまな対策を講じています。
4-2 自治体の「支出面」に疎くなる
徴税吏員になると、当該自治体の「支出面」に疎くなりがちです。
正確には、自治体の収入のみに執着することになるので、自治体の支出にまで気が回らなくなることが多いです。これは、日常的な回収業務により、事業の予算などとは無関係の日々を過ごしているためです。
5.実はメリットの多い徴収業務
徴収業務のメリット・デメリットを述べてきましたが、結果的にメリットの方が多くなりました。
このようなメリットにより、実際に各自治体では、「税務職員のスペシャリストコース」として税務業務に数十年間従事する職員も存在します。
公務員が異動辞令を受ければ、それを拒むことはかなり困難でしょう。
徴税業務を敬遠する気持ちはよく分かりますが、あなたの性分にマッチする可能性もあります。
もしマッチしなくてもその数年で蓄積するスキルは、あなたの人生で貴重なものとなるでしょう。