1.はじめに
2019年に実務教育出版から出版された、
■高瀬淳一著「行政5科目まるごとパスワードneo2」(本記事では単に「パスワード」と以下で書きます)
■「行政5科目まるごとインストールneo2」(同じく、単に「インストール」とします)
上記2冊についてご紹介します。
レビューをする前に、本書が対象としている行政5科目の公務員試験上での位置づけを確認しておきましょう。
そもそも行政5科目とは、政治学・行政学・社会学・国際関係・社会政策のことを指します。
出題される試験種を簡単にまとめておきます。
国家一般職 | 政治学・行政学・社会学・国際関係を選択することが可能です。いずれも1科目5題出題されます。 |
国税専門官等 | 政治学・社会学・社会事情を1科目6題として選択式試験で選択可能です。また、社会学を記述式試験で活用することができます。
※国税専門官と同一日に試験実施される財務専門官でも政治学・社会学が、労働基準監督官であれば社会学がそれぞれ使えます。そして、同じく同一日に実施される法務省専門職(法務教官・保護観察官)では社会学が選択式で必須回答、記述でも選択可となっています。 |
地方上級全国型 | 政治学2、行政学2、社会政策3、国際関係2が必須としてあります。 ※中部北陸型、関東型はこれらの科目が選択となります。 |
東京都庁(一般方式) | 記述式の問題を3題選ぶ際に、政治学・行政学・社会学を選ぶことができます。 |
特別区 | 11科目×5問の計55題中40題を問題選択する際、政治学・行政学・社会学を選ぶことができます。 |
以上から読み取れることは、地方上級全国型を除き概ね選択科目だということです(法務省専門職の法務教官や保護観察官は社会学のみ必須ですが)。
そして、公務員試験で専門科目を行う場合、ほとんど捨てることが難しい(=どの公務員試験種でも一定のボリュームが課される)法律系科目である憲法・民法・行政法と、経済系科目であるマクロ経済学・ミクロ経済学・財政学をしっかり学習します。
となると、学部で行政5科目に関連した学習をしていない人は選択をそもそもしないか、するとしても5科目中の1、2科目を選ぶことになります。そして、行政5科目は、どうしても主要専門科目と数的処理をはじめとする教養試験の学習を優先したいので、短時間で効率よく得点化したいものになります。
ということで、本レビューは、行政5科目を短期間にそれなりに合格圏内の得点ができるかという観点を重要視してお伝えします。
2.行政5科目まるごとパスワードneo2、インストールneo2のお薦め度は5段階中2
(1)本の構成
パスワードはいわば、キーワードの解説型のテキストです。本編180ページほどで、政治学・行政学・社会学を中心に、国際関係や社会政策にも触れたものになります。公務員の試験傾向を踏まえ、頻出のキーワード解説をしています。
インストールは、演習本です。本編のページ数はパスワードとほぼ同じです。選択肢の切り方や、取り上げた問題への解説を通じ、パスワードを補完していきます。その意味で、パスワードとインストールはセットで効果を発揮するといえます。
(2)お薦めの点
タイトルにお薦め度を2としました。厳しい評価ですが、内容が拙いというわけではありません。
頻出単元をしっかりと分析し、そこの得点が取れるように紹介順番を工夫しています。
例えば、政治学は、近年、政治思想家の考えたことや理論よりも、実態としての政治制度などがでていますが、これをしっかり反映した内容になっています。
内容を厳選しているので、コンパクトであり、やる気にもなります。
1科目が多い科目でも数十ページですので、その気になれば1日で読めることは、学習者の心理的な負担を減らします。
(3)留意点
では、なぜ、そこまでお勧めしないかというと、
結局は、スーパー過去問で演習をしなければならない点です。パスワードとインストールだけでは、流石に安定的にこの科目を使えるほどにはなりません。
言い換えますと、特別区など問題選択ができる試験種で、勉強してきた専門科目において当日分からない問題に出会ったとき、行政5科目の何かで逃げられるように数問解けるようにするならばこの本だけで良いでしょうということです。
つまり、国家一般職などでしっかり5問を選択したときに、「まぁ6割以上大抵は取れるでしょう」とするには、スーパー過去問の政治学・行政学・社会学などの学習が必要です。
そして、行政5科目がいきなりスーパー過去問から学習したときに、ついていけないかというとそうではないかなと思うわけです。概念や制度の暗記であり、そこまで丁寧な解説が不要だからです。ならば、いきなりスーパー過去問から学習をすれば良いかなと思います。
となると、説明・編集がそれなりに良いこの本を「使うチャンスがない」ことになるため、お薦め度が2となります。
■公務員試験 新スーパー過去問ゼミ7 政治学(実務教育出版)
■公務員試験 新スーパー過去問ゼミ7 行政学(実務教育出版)
■公務員試験 新スーパー過去問ゼミ7 社会学(実務教育出版)
■公務員試験 新スーパー過去問ゼミ7 国際関係(実務教育出版)
なお、スーパー過去問には「社会政策」がありませんが、この科目は時事の社会保障や労働のところをおさえつつ、過去問にあたれば良いといえます。
それから、どうしても行政5科目を高得点化したいが、学者・思想家の言っていることや理論が難しいとお考えの受験生には、スーパー過去問よりも砕けた表現の本を探すことになりますが、パスワードはそもそも学者・思想家の部分をかなり精選していますので、別の本となります。
例えば、エクシア出版から出ている『寺本康之のザ・ベストシリーズの政治学・行政学・社会学』などを通読すると良いでしょう。
3.おわりに~まとめ~
ということで、パスワードとインストールの本自体は、コンパクトに頻出単元をまとめています。他方、これだけだと、これらの科目を選択する予定ではないけど、選択する予定の科目に万が一分からないものがあったときの逃げ道にしたいという位の得点力といえます。
その使い方で良いならパスワードとインストールはお勧めです。
他方、行政5科目のうち何かをしっかり選択するつもりであれば、その科目のスーパー過去問にいきなり取り掛かりましょう。また、学者理解が難しい方は、寺本康之のザ・ベストシリーズを読むと良いでしょう。
これからもテキストの選定と利用方法について色々とお伝えしていきますので、参考になれば幸いです。